English

外国人が見た日本

Japan Thru Non-Japanese Eyes

ローン・スプライ

ローン・スプライは仙台で教師をしています。 小さい頃から小型ボートやカヌーといった水の世界の探検ができた生まれ故郷、バンクーバーが大好きです。 興味のあることは歴史、パソコン、スポーツ、自転車、そしてアジア料理です。

初体験  

人生というのは初体験だらけである。 初めての誕生日、ファーストキス、初仕事、第一子などといったものが、私たちが俗に言う人生という冒険にはあるのである。 近頃思い出す初体験は日本で起こったものばかりだ。

子供だった頃、僕は古い日本の切手を持っていた。 その切手は僕の宝だった。 小さくてシンプルで二色使い。 はっきりと富士山が写っていたけれど細かいところはのっていなかった。 写真のようではなく、どちらかというと浮世絵のように、完璧な青と白の富士山だった。 もう少し大きくなると、僕はたびたび街に出掛け、日本の映画を観た。 僕が観た映画はだいたい、今でも好きなモノクロフィルムだった。 白黒や灰色といえど、富士山は僕を魅了した。 自分が世界の何百万という人になったみたいだった。 完璧な山はどんないろになっても綺麗なものだ。 それにとても魅了的だ。

そして何年も経った後、来日した。 旅行者ではなく、もう一人の教師と一緒に同じ会社で働くために来た。 僕らのしばらくの間だけど最後のカナダ体験は成田に着いたカナディアン航空だった。 急行列車で横浜へ行き、また他の列車に乗り、そして僕らの新我が家へと着いたのだった。 海が近い、どこか藤沢と江ノ島の間あたりだった。 夕飯を食べ、ビールを飲み、疲れた旅人は床についた。

翌日布団に座った。 日本での初朝、畳での初睡眠。 窓辺では初めて障子を開けてみた。 まだ眠かったけど、光が射し外を見るにつれ目が覚めてきた。 遠くに何か見えたけれどはじめ僕の脳みそはまだ自分が何を見ているのかわかっていなかった。まだ夢を見ているのか、それとも寝てるんだろう、だってこんなことあるわけないじゃないか。

「クリス、ちょっと来いよ」 と僕は言うと、
「は?」と奴は答え、「なんだ? ちょっとまってよ」と言った。
「ちょっといいから来いよ」と言うと奴はゆっくりと、ねむたげに来た。

僕らが外を見てみるとそこにはあった。 遠くだが、北斎や広重にでてくるようなはっきりとした富士山が。 完璧な美だった。 冷たいけどスッキリとした冬の空気の中で青と白にそびえたっていた。 二人とも感動してた。 ほんとに起きてるのか目をこすって体をつまんでみようかとおもった。 だって想像してたよりもはるかに完璧で美しかったから。

それ以来幾度となく富士山は見てきた。 横浜からは霧と靄に包まれた富士山を。 冬の朝焼けの中で僕の上に白くそびえたつ富士。 夏の焼けた茶色の山。 飛行機の中からは周りの雲から突き抜け陽の光のなかで白く輝く富士を。 だけど、いつもこの完璧な富士を見るたびに初めて見るような気がするんだ。 初めて見た時と変わりなくいつも完璧なんだ。 あの古い切手のように。

僕がいまだ富士山に登らないには理由があるんだろう。 そこにあるだけで美しく最高の山。 いつもそんなでいてほしいから、初体験のように。 

赤松紗余子 訳

   翻訳者赤松紗余子さんのプロフィール:カナダでの5年間の留学を経て帰国。 大学ではChild and Youth Care を専攻。

メニューへ

Copyright 2000 SHE Ltd.