![]() 絹の道(シルクロード) |
2. トルファンのカレーズと胡旋舞
遠方にゆらゆら水が光ってみえるが、近づくと遠のいてしまう。
トルファン盆地、海抜マイナス154メートル世界一の低地だ。 ここでは天山山脈の雪解け水を引いた井戸が人と緑の命の水だ。 一定間隔に掘った縦井戸(カレーズ 深さ20メートル位)を山の傾斜を利用して横穴にのばし、順々にオアシスに繋げていくのだ。砂の民が古くから使っているカレーズの中はひんやりして、水は、冷たく甘かった。 雪解け水で育った種なし白葡萄マーナイ(馬乳)は、砂漠の真珠と尊ばれ、ワインや干葡萄は日本でも出回っている。 トルファンは風庫と呼ばれる位、いつも砂塵が舞っている。風が静まる瞬間、砂塵の中から、鮮やかな色彩の衣服を着たウイグルの少女達が、耳飾りと腕輪の揺れる音とともに、どこからともなく幻のように大勢現れた。トルコ、イラン、スラブ系の混血で蠱惑的な美人が多い。
ラワープ(インドのシタールや、ギターに似た弦楽器)に併せて、きらびやかな衣装を纏った乙女達が、華奢な四肢と長い髪をくねらせて激しく胡旋舞するのだ。多くの英雄や詩人を悩殺した扇情的な舞とメロディーは、中近東のベリーダンスやスペインのジプシーダンスを思い起こさせた。 白楽天も胡旋舞に魅せられ、詠っている。 「胡旋女、胡旋女、心は弦に応じ、手は鼓に応ず、弦鼓一声双袖挙がり・・・」 歌と踊りに明け暮れるおおらかなウイグル族だが、実はしぶとく、したたかで賢い。強国に挟まれ支配される形を取りながら、結局は独自の風俗習慣や言語を押し通し、どの時代も堂々と生き延びてきた。 権力の虚しさを知り、逆らわずに生きる術を、歴史から会得したのだろうか?
トルファンには、その後も何度か旅した。
デコボコ道は舗装され、崩れかかった泥煉瓦の廃墟も修復された。
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Copyright1998 Setsuko Watanabe
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