絹の道

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絹の道(シルクロード)


2. トルファンのカレーズと胡旋舞

 遠方にゆらゆら水が光ってみえるが、近づくと遠のいてしまう。
 逃げ水、蜃気楼(mirage) だ。
 天に飛鳥なく、地に走獣なし。
 西遊記でお馴染み火焔山の赤砂岩が、強い日差しに焼かれ、燃えたつように陽炎(かげろう)がたっていた。灼熱地獄だ。

カレーズ
カレーズ
Copyright1998 Setsuko Watanabe
 
 忽然と緑濃い葡萄棚と幾重ものポプラ並木に囲まれたオアシスが現れた。
 トルファン盆地、海抜マイナス154メートル世界一の低地だ。
 ここでは天山山脈の雪解け水を引いた井戸が人と緑の命の水だ。
 一定間隔に掘った縦井戸(カレーズ 深さ20メートル位)を山の傾斜を利用して横穴にのばし、順々にオアシスに繋げていくのだ。砂の民が古くから使っているカレーズの中はひんやりして、水は、冷たく甘かった。
 雪解け水で育った種なし白葡萄マーナイ(馬乳)は、砂漠の真珠と尊ばれ、ワインや干葡萄は日本でも出回っている。

 トルファンは風庫と呼ばれる位、いつも砂塵が舞っている。風が静まる瞬間、砂塵の中から、鮮やかな色彩の衣服を着たウイグルの少女達が、耳飾りと腕輪の揺れる音とともに、どこからともなく幻のように大勢現れた。トルコ、イラン、スラブ系の混血で蠱惑的な美人が多い。

胡旋舞
胡旋舞
Copyright1998 Setsuko Watanabe
 
 夜は、葡萄棚の下でウイグル族が幻想的な歓迎舞踏会を催してくれた。
 ラワープ(インドのシタールや、ギターに似た弦楽器)に併せて、きらびやかな衣装を纏った乙女達が、華奢な四肢と長い髪をくねらせて激しく胡旋舞するのだ。多くの英雄や詩人を悩殺した扇情的な舞とメロディーは、中近東のベリーダンスやスペインのジプシーダンスを思い起こさせた。
 白楽天も胡旋舞に魅せられ、詠っている。
 「胡旋女、胡旋女、心は弦に応じ、手は鼓に応ず、弦鼓一声双袖挙がり・・・」
 歌と踊りに明け暮れるおおらかなウイグル族だが、実はしぶとく、したたかで賢い。強国に挟まれ支配される形を取りながら、結局は独自の風俗習慣や言語を押し通し、どの時代も堂々と生き延びてきた。
 権力の虚しさを知り、逆らわずに生きる術を、歴史から会得したのだろうか?

 トルファンには、その後も何度か旅した。
 ポプラ並木は、年々高く濃く育っていく。

 デコボコ道は舗装され、崩れかかった泥煉瓦の廃墟も修復された。
 風雪歳月が作り上げた大切な遺産が、修復する事で、逆に無惨に破壊されてしまったように思える。
 遺跡を後世に継承するのは大切だが、修復の仕方は難しいと感じた。

リンク集
トルファン付近の地図
トルファン付近の写真集

Copyright1998 Setsuko Watanabe


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