小さな入り江に抱かれた鄙びた漁港。
磯の香り。紺碧の海。浜に並ぶ屋台。
成田から飛んで1時間半、韓国第二の都市釜山(Pusan)から車で20分の街中に、まだこんな浜が残っている。
マイアミ並みの高層ホテル群に先ず圧倒されるが、白砂2kmの奥は、小さい漁港。そこから、カボチャ畑の間の急坂を5分ほど上り詰めた月見が丘に気に入りの宿がある。オンドル部屋にちゃぶ台に茶箪笥。衛星放送で日本のテレビを見れば、温泉宿気分だが、相客は外国人ばかりだ。
ここから観る月夜の浜が美しい。
ホテルの窓から見た海雲台
Copyright1998 Setsuko Watanabe |
海雲台(Haeundae)は、韓国八景の一つ。
三面海に囲まれながら、韓国には国防上解放ビーチが少ない。
だから海水浴シーズンには、白砂も人で見えない程に、混み合うそうだ。
でも私が知っているのは、昼間は眠たげで、月の光を浴びて初めて、幻想的に輝く白浜と銀波である。
浜に並ぶ無数の刺身屋台や占い小屋の豆電球が、艶めかしい彩りを添えている。
夜、なお皓々として、客の少なさばかりが目立つが、朧な明かりの占い小屋では、若い恋人達が真剣に話しあっている。
南側に海を抱く入り江は他にも沢山ある。
だが涼冷な月光と妖しげな屋台の明かりのコントラストが醸し出す神秘的で、艶めかしい夜景は他に類がない。月と下界、幽玄と猥雑のハーモニーだ。
8月の仲秋の明月には、月見客で賑わうという。
韓国人は、眩しく燃え立つ太陽よりも、幽かな月の光を愛でると聞いた。
遠くから鳳仙花(touch-me-not洪蘭坡作曲・花に託して民族独立を願う歌)が嫋々と身に沁みいるように聞こえてきた。
朝市
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ベランダの鳥の囀りで目を覚ましたが、まだ暗い。
ハングル語で、鳥は「囀る」のでも、「歌う」のでも、「鳴く」のでもなく、「泣く」のだそうだ。
人も鳥も風も梵鐘もせせらぎもみな同じに「泣く」。
悲しみの多い民族だから、音の出る物全て、泣いているように聞こえるのだと聞いた。
港に散歩に出たら、朝市の最中。
月蔭はとうになく、ゆるり、きらりと太陽の登場である。
屋台では、日の出を肴に朝酒で刺身をつつく優雅な客もいて、アワビと法酒(韓国のライスワイン)を振る舞ってくれた。
韓国を旅して感じる漠とした疎外感や寂寞感がここにはない。
海と共生する人々は、どこでも、開放的で明るい。
●リンク集
韓国観光公社のトラベルインフォーメーション
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