ボルテラを訪れたいと思っていた。
ローレンスのエトルリア紀行を読んで、エトルリア文化に興味を持ったこと、美術誌で見たevening shadowという細長いブロンズ像とその名に心惹かれたこと、それに息子の友人がいたことなどが重なって旅が実現した。
ボルテラ入口の門
Copyright1998 Setsuko Watanabe |
初秋の夜、フローレンスから、大嵐の中をトスカーナ丘陵を車で2時間ひた走り、ボルテラの灯が見えた時は感激した。2千5百年前にエトルリア人の築いた城塞都市(海抜535メートル)は、敵の奇襲に備えて、深い谷に面した丘にあり、今でも陸の孤島だ。昔とそう変わらない自給自足のゆったりした時が流れている。
郊外の農場に泊まり、朝夕、街を仰ぎ見た。
暁の空に太陽と共に街が現れる。
夕日が緩やかな丘陵に落ち、空が黄金色から、茜色、茄子紺そして漆黒になる。
2千年もトスカーナの丘や谷や人々を見続けた悠久の城塞が、夜間照明され、空中楼閣のように浮かび上がる。
トスカーナは、風がいつだって蒼々と吹いている。
枯れ草や、砂埃や、時には、羊の匂いとともに、エトルリア人の棺のかび臭い匂いまで運んで来る。
博物館で、現実よりも死後の世界に夢を託したエトルリア人の骨壺に囲まれていると、死者の街に溶け込んでしまう。
当地産のアラバスタやテラコッタの骨壺の蓋に、横座りした死者と、日常品の数々が精魂込めて彫られている。生前の生活を表す様々な品物や死者の穏やかな表情から、平和で豊かだったであろう生活が忍ばれた。特に女性が、伸び伸びとしている。
老夫婦が一緒に座っているテラコッタの蓋(紀元前1世紀)には、心打たれた。
evening shadow
Copyright1998 Setsuko Watanabe |
evening shadowは、アメリカに貸し出し中で、実物大のレプリカがあった。
夕日が長い影を落とす丘上の城壁の街にきて、少しは作者の気持がわかった。
夕暮、城壁に写る自分の細長い影ぼうしを表現したのか?
日暮れて旅人が城門へと急ぐ様子を彫ったのか?
夕暮への畏れと怖れが入り交じっている。
街の象徴になっていて、どこのショーウインドーにもコピーが飾ってある。
2千年以上も昔、こんな超モダンな像を一体誰が何の為に作ったのか?
ボルテラ入口のアーチ(紀元前4世紀)のお面3対は、目鼻口が腐食されて、昔の姿は想像もできない。一体どんな顔で、何の役をしていたのか?
エトルリアは1世紀には、ローマに征服されてしまう。芸術性高い文明を、ローマ人は妬み、悉く破壊してしまった。
だからエトルリア文化には、謎が多い。神秘のボルテラと言われる由縁であろうか。
不可解な所が、ますます想像力を掻き立てる。
●リンク集
ボルテラ地区観光協会
ボルテラの写真
博物館
Copyright1998 Setsuko Watanabe
|