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南房総の海の色と海岸線は、スペインのコスタデルソル(太陽海岸)を思わせ、懐かしい。 まぶしく輝く夏の海も良いが、柔らかな陽を受け、光揺らめく初春の海は、のびやかで魅惑的だ。 菜の花畑の黄色が、海の青を一層引き立てている。
潮風に震えて咲いている菜の花が、素朴で飾り気のない南房海岸に、一番似合っていると思う。 早春を匂わせる香りも好きだ。 だから、毎春、菜の花と海を見に訪れる。 小さな漁港の細い坂道を登りつめると、何気ない寿司屋があって、地魚の寿司がおいしいのも、楽しみの一つだ。
山合いと海辺の集落の交流の道、古くは塩汲みの道、生活物資の往来、学校への通学路でもあり、花嫁行列もここを通ったという生活の歴史の染みついた道だ。 交通手段だった馬に因んだ馬井戸、駒返し、桟敷塚(馬駆け道)等の地名も残っている。 高低差があまりなく13.5kmを約4時間で楽に歩ける。 磯香と菜の花の香りにむせそうな道を通り、檜の林を登りきると、マテバシイの林にでる。 根元から、何本もの太い幹に分かれ、バニヤンみたいだ。こんな形のマテバシイが、林になっているのは奇観だ。ハゼ、ゆすりは、楠、エノキなどの雑木林を尾根歩きする。要所要所の見晴らし台では、外房の海や、富士山、伊豆半島まで見える。
段々畑の随所に、一面黄色の菜の花畑が点在する。寒桜、梅、椿も咲き始めた。 小さな滝が涼やかに流れ込む渓流が山道に変化をつけている。 コースの終点は、花園海岸だ。 この地を愛した鹿島鳴秋の童謡「浜千鳥」の石碑が立っている。先立たれた愛娘を偲んで作ったとされている。 行き会ったパック旅行客が、花嫁街道という名から、平地を歩くと思って参加したら、山歩きなので、驚いたと口々に言っていた。 何十年か前までは、この道を、往復4時間も掛けて通学したり、塩や米等を運んでいたと思うと、木々や石や流れにも親しみを感じた。 古く生活路として使っていた山道を、ハイキングコースに蘇らせたのは、素敵な村興しの企画だと思う。 馬で輿入れする花嫁を偲びつつ、楽しく歩いた小春日和の一日だった。 ●リンク 「和田町案内」 「和田町地図」
Copyright1999 Setsuko Watanabe
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