渡辺節子が行く「世界の旅」

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ミモザとシトロンと紺碧海岸(コートダジュール)


 どの旅もみんなちがって、みんないい。
次々とハプニングの起きる旅もスリリングだが、 春の海のように、のたり、のたりとした旅もいい。
 初春のコートダジュールは、そんな旅にうってつけだ。観光客も避暑客もまだいない 。
 開幕準備中の素顔の町だ。それに、食事がおいしい。ワインがおいしい。

 ニースから東へ電車で10分の小さな漁村に滞在した。
 ホテルの部屋は角部屋で2階、前方2面は、地中海。
 眠っている間にベッドごと、のたりのたり船出してしまいそうに、海が間近い。
 ホテルの前には、ジャン・コクトーが壁画を描き直したという古い小さな教会があ る。壁画制作中、彼はこのホテルに滞在した。だからレストランの食器はコクトー の絵入り特製だ。


Copyright1998 Setsuko Watanabe
 夜中に目覚めると、そこかしこ漁火が、水面にゆらゆら写っている。
 潮騒が聞こえる。

私の耳は、貝の耳、
海の響を懐かしむ。

(コクトー)

 という詩は、ここで、詠まれたのだろうか。

 電車に30分乗ればイタリーだ。モンテカルロ、モナコやニース、マントン、アン チーブも30分以内。コートダジュールには美術館も多い。シャガール、マチス、 ピカソ、ペイネ、コクトー、デフィー、ルノアール、セザンヌと枚挙にいとまがない。
 閑散としてゆっくり鑑賞できる。

 ニースのカーニバルとマントンのレモン祭のオープニングに出かけた。どちらもミ モザとレモン(シトロン)で飾られた何百のいうパレード車が、紺碧の地中海に沿 ってパレードする。素朴で陽気で、賑やかだ。仮面仮装して見物している人も多い 。2週間続き、後にいくほど盛り上がる。
路上芸人は舌を捲くほど芸達者だ。
街中がミモザの花でむせ返るようだ。切り花を買う人あれば、庭で花を付けすぎた ミモザを惜しげもなく切り落とす人もある。
 そんなミモザのたっぷりした枝をもらってバスに乗ったら、ミモザを持っている人 は最後部座席へと注意された。花粉症で悩む人が多いのだ。
 それでも、お祭り好きの人々は、手に手にミモザの枝を振りかざして、パレードを 歓迎する。春の到来を喜び迎えるように。

 ミモザとシトロンと紺碧の地中海と、赤葡萄酒とおいしい魚料理、 いつかまた初春のコートダジュールを訪ねよう。

コートダジュールのホームページへ

Copyright1998 Setsuko Watanabe

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