渡辺節子が行く「世界の旅」

イラン

1.イラン(ペルシャ)の女性  -秘すれば花-


所変われば、服装も変わる。
しかし旅行者の服装まで干渉する国はイラン位だ。

1979年のイスラム原理革命で生まれ変わったイランイスラム共和国では、性的身体部分を異性から覆い隠す服装で男女間の秩序を守るのだそうだが、要は、女性は、自宅以外は、どこでも黒のチャドルに身を包み、化粧無しの顔だけ出している。都合が悪いと顔まで隠してしまう。
異性は夫、親兄弟以外とは、外出も食事もできないのだそうだ。
私もイラン航空の機内から、スカーフを被り、黒っぽい上着と、パンツ姿で身を固めたが、それでも、行く先々で上着丈が短い、腰がくびれている、パンツに赤の模様がある、前髪がスカーフから出ている等、度々注意され、あちら調達の長いレインコートを着せられた事も何度もあった。

モスクの中庭にて
モスクの中庭にて
(C)2000 Setsuko Watanabe
生真面目な若い女性ガイドをからかってみた。
「イランの男性は、すっぽり覆い隠した女性の何処を見て、伴侶を選ぶの?」 すかさずびしっと応酬された。
「日本の男性は、全部脱がさなくては、好きな女性を選べない程、知性と想像力がないのですか?」

おかしなもので、一週間もするうちに、黒衣からかいま見える足首、手先や、体の動きで揺れるチャドルが、体の線の露わな洋服より、なまめかしく見えてきた。

お化けのキャスパー
お化けのキャスパー
(C)2000 Setsuko Watanabe
モスクの中庭を夕暮れにしずしずと歩く女性。
衣擦れの音。風に揺れるチャドル。
そこはかとなく漂ってくる秘めた色気。
遠くから響き渡る哀愁帯びたコーラン読響の声 一瞬そこだけ時間が止まった位美しかった。
花伝書に「秘すれば花」と言うのがあるが、隠すほどに秘密めいた魅力が増すのは確かだ。
だからと言ってチャドルを着れば、誰だって色気がでるわけではない。
私が着ると、まるでシーツを被ったお化けのキャスパーだ。

ペルシャの女性
ペルシャの女性
(C)2000 Setsuko Watanabe
古くからの東西の交通要路であるペルシャでは、他民族の血が混ざり合い、妖しい美女が生まれたのだと思う。
14世紀の国民詩人ハフェーズ(hafez)も、謳っている。

-シラーズの乙女よ。汝の心を我が物にできるなら、ブハラやタシケントだって喜んで人に呉れてやろう。-

そんな傾城の美女が、男性を惑わせないように、黒衣をきせているのだろうか?

現代のイラン女性は、本音と建て前を賢く使い分けて、一歩自分の城に入れば、チャドルをかなぐりすてて、美しく装って、自由奔放で、色彩感のある生活を送っているそうだ。
光と陰があって、ますます神秘的な女性に磨きがかかるのだろう。

リンク集
「イランガイド」
「イランの地図」

Copyright2000 Setsuko Watanabe


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