みんなで持ち寄り旅のスケッチ

ニース:私の耳は貝の殻海の響きをなつかしむ 』   

ジャン・コクトー

鈴木敬子

 コートダジュール10日間の旅は、明るい陽ざしのもと、にぎやかな二一スのカーニバル見物から始まった。花で飾った車上の美女が投げるミモザの花に、沿道の人々がわれ先にと手をさしのべる。沿道の後ろは白いさざ波がうち寄せる紺碧の地中海。抜けるような青空と交わる水平線が長く続く。もう一つのお祭り"マントン"ではレモンとオレンジの実をぎっしりはめ込んだ巨大な人形たちのパレード。

 砂浜にせり出したカフェテラス、葉のついたレモンやオレンジを籠に入れて売る人々…。今回の旅で私の最大の楽しみであるジャン・コクトー美術館は、この美しい街の海辺に建っていた。初めて見る絵の数々。彼独特の線画の、オリーブをくわえた人の顔が、入り口の壁にモザイク状に嵌め込まれている。きびしい中に都会的な甘さのあるコクトーの世界が、古い城壁とマッチして心憎い演出だ。美術館パスで歩きまわったが、それぞれ個性があって素晴らしい。画や彫刻だけでなく建物と街の空気と海の匂い、すべてひっくるめての美術館だ。ルノアールが住んでいた館で、窓越しに見える風景と同じ絵が掛けられているなんて、最高の贅沢ではないだろうか。
 オリーブの樹が続く広い庭で一時間程のんびりと過ごした時間も忘れられない。もう一つのコートダジュールの魅力は外敵の襲撃をさけるために丘の頂に造られた"鷲の巣"と呼ばれる美しい中世の村。迷路のような小道、時が止まったような仔まい、敷石の一つ一つにまでなされている心配り。地中海の厳しい歴史と繊細な文化を垣間見た思いがする。旅の後半は、バスや電車をのりついで各自陶芸村や香水の街を巡る人、入江の風景をスケッチしに行く人、カンヌでの買い物など、それぞれに楽しんだ。とても良い旅だった。tabi_2.html

筆者紹介 鈴木敬子 suzuki@shejapan.com

渡辺節子旅のスケッチ、『ミモザとシトロンと紺碧海岸(コートダジュール)』