渡辺節子が行く「世界の旅」


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ライラック薫るブダペストと
ハンガリー大平原(プスタ)


1. ブダペストとジプシー(ツイガニ)音楽

 東欧を旅するのは、ライラック(リラ)の咲く春がいい。
 ドナウの水面がリラ色に染まり、芳しい風が、川をわたる。
 色濃く深い大きな房が、白くて小さなリンゴの花と、競って引き立てあう。

 東欧には、私達がとうに失ってしまった古き佳き文化がまだ残っている。
 中でもブダペストは、とりわけ心休まる懐かしい町である。
 ドナウの両岸、ブダ丘とペスト地区を数本の橋で繋げたハンガリーの首都だ。
 東欧のパリとも呼ばれ、自由な雰囲気と活気があるが、えも言われぬ哀愁が町中に漂う。
オスマントルコ、ハプスブルグ等に侵略、破壊され続けた悲惨な歴史のせいであろうか。

 寒い冬を耐え、春に見事に花開く憂いありげなライラックが、この町には似合っている。

 ハンガリー人(マジャール人)は、ウラルを超えてアジアの地から、9世紀末にこの地に侵入してきた。だから日本人に特別な親しみを抱いている。言語の類似は不気味なほどである。心情もどこか似ていて、初対面でも旧知の間柄のような気になる。

写真
Copyright1998 Setsuko Watanabe
 ブダペストは黄昏時に散歩するといい。ペスト側川辺から見上げるブダ丘の王宮は、夕日に映えてまぶしい。くさり橋をわたり、ブダ丘の石畳をのぼる。リラの薫が漂ってくる。恋人達のデートコースだ。
 ゲレルトの丘で、ドナウを挟んだペスト地区の夜景に、見とれていると、バイオリンが聞こえてくる。小節がきいた演歌調。妖しい想いをかきたてる。音に魅かれて、レストランに入る。ジプシー(ツイガニ)の楽隊がバイオリンとツィンバロム(木琴の一種)で演奏中だ。

 インド北辺出身と言われるジプシーは、放浪しながら、各地の音楽を拾い集め、独自の音楽を作り出した。
 ハンガリーのジプシーは、東洋的旋律とマジャールのリズムを合わせて、勇ましくも、物悲しい草原の音楽を創り出した。虐げられたマジャールと、放浪するジプシーの哀しみや抑圧された情熱が綾なすメロディーで、人の心を揺さぶる。

 ジプシー音楽に魅せられた音楽家は多い。
 ハンガリーを代表するリストのハンガリー狂詩曲や、 ブラームスのハンガリー舞曲は、ジプシーの舞曲チャルダシュを素にしている。
 ベルリオーズのハンガリー行進曲、サラサーテのチゴイネルワイゼン(ジプシーの調べ)もジプシー音楽の編曲だ。

 ブダペストの夜は音楽で溢れている。

 次回は『ハンガリー大平原(プスタ)とチェルノブイリ原発事故』です。

リンク集
「ハンガリーの地図、写真」
「ブダペストの写真」

Copyright1998 Setsuko Watanabe


〜続く〜
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